【対象年齢:2歳半〜】

ぞうのババール

ジャン・ド・ブリュノフ作

やがわすみこ訳

評論社 1974年


この絵本がすぐれた絵本なのかどうかは意見が分かれるところであります。私もババールを紹介すべきかどうかはずいぶんと悩みました。しかしこうして紹介することにしたのは、一重に描かれるイラストが素晴らしいからです。そしてそのイラストは名もなき画家によって描かれたもので、それがどこにも表記されていないからでもあります。

 

作者であるブリュノフが作ったのは文章のほうで、イラストは外注していたのですが、おそらく権利を買い取ったかして自分のものにしてしまったようです。ブリュノフは自分の子どもたちを喜ばせるために、子どもたちと一緒にこの物語を作り上げたそうです。ですから、中身はあまりにもご都合主義すぎて読み手が物語に入り込むのをいちいちためらわせます。

 

例えば、アフリカから逃げたババールが2,3日するとパリにたどり着いたり、買い物がしたいと願うとお財布をくれる人が現れたり……といった具合です。こうした飛躍は例えば子どもが飛行機を操縦するとか、魔法を操るといったようなファンタジーとは違います。どちらも現実にはありえない話ですが、ババールのそれは夢がなさすぎるのです。いくらでも使っていいよと現金を渡されるそれのどこが子供向けだというのでしょうか!

 

物語には見るべきところがなく、こんな本を出版社に持ち込んでもとうてい採用されそうにないわけですが、なんとブリュノフは自分で会社を起こして出版してしまいます。その後、ババールはシリーズ化され世界中で読まれるけったいな絵本となります……。

 

大人にとってはまったくの謎本であり、かのセンダックも最後までたぶん嫌いだったと思われるババールですが、子どもにはなぜか受けがいいのです。まず最初に母親がハンターに撃ち殺されますが、そこは象ということでそれほど感情移入されずに通り過ぎます。その後の欲しいものはなんでも手に入る生活に子どもの煩悩が揺り動かされるのかもしれません。

 

いまもってなお、この絵本の内容には疑問しかありません。しかし、最初にお話しましたように、イラストがたいへん美しいのです。名もなき画家のすばらしい作品です。ちなみにその画家はババール第二作で自画像と登場させています。お探しあれ。