
子どもがいない頃は、男が赤ちゃんを抱っこしている姿をみれば背中を丸めてなんて女々しい姿なんだと思ったし、ましてやミルクをあげるなんて俺には薄ら恥ずかしくてとてもできそうにないと思っていた。
ところがである。
息子が生まれて否が応でもそういう状況がきた。小さな小さな赤ちゃんを抱っこするには背中をまるめて囲みこむようにしないといけない。なるほど俺は今かつての俺が女々しいと思った姿勢をしているんだなと思ったが、女々しいと思った感情も目の前の赤ん坊が見つめ返してくれている幸せが吹き飛ばしてしまう。
哺乳瓶を差し出せば反射的に口を開き一生懸命飲み始める。ああこいつ生きているんだな。生きようとしているんだな。薄ら恥ずかしいなんて思っていたことをもはや思い出すこともできなかった。まもなくして息子はミルク嫌いになり母乳一本になってから俺は淋しさを覚えた。