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ミルク全戻しにはわけがあった。

ミルクをあげる楽しさについては以前書いた。自分が差し出す哺乳瓶を必死に加えて一生懸命飲む我が子の姿を見たら増々可愛くなってしまうこと請け合いである。

 

ある日、いつものようにミルクをグビグビと飲ませていた。よしよしいいぞその調子だ。そんな気持ちで実際にはえらいねえ、よく飲むねえ、うんうんえらいえらいなんて言いながらすっかり飲み干してしまった息子を眺めにんまりしているときにそれは突然やってきた。

 

ゴボッゴボッゴボゴボゴボゴボゴボ。

 

映画エイリアンでアンドロイドであるビショップがエイリアンに串刺しにされて口から牛乳的人造体液を吐き出す様子が脳裏をよぎった。あろうことか息子は今飲んだミルクをすべて吐き戻したのである。

一面ミルクだらけになったが、それよりも吐いたという事実がぼくを動転させる。この子の身体になにかあったのではないか。気道にミルクがつまって窒息してしまうかもしれない。病気か。妻がいないこの時に大変なことになった。

 

息子はげほげほと咳をしたのちに大泣きしたからとりあえず窒息は免れた。しかしこんこんと湧き出る泉のごとく逆流したミルクを目の当たりにしたぼくは着替えと片付けをしながらも心配でたまらなかった。

 

今飲んだミルクを全部吐き出したのだからきっとお腹が空いているかもしれないが、また逆流すると思うと怖くてあげられなかった。。。

 

かようにして初めての逆流はなかなかにホラーであった。

しかしその後何度か吐き戻し問題を経験するうちに法則性というか経験知を得るようになる。

それはつまり飲んだ直後縦抱きすると吐き戻し率が高いということだ。感覚的には縦にしたほうが重力の影響でミルクが胃のほうへ落ちそうな気がするが、実際は違う。この点既存の因果律にしばられた大人はすぐさま納得がいかないかもしれない。とくに物事の論理性を重んじる男性ならば余計だ。しかしその論理がいつも正しいとは限らないのである。

 

とにかくミルクを飲ませたらそっと横にしておくのが吉である。赤ちゃんには赤ちゃんの都合があるのである。