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出産間近

友人が出産間近である。予定日を来週に控えまさにいつ生まれてもおかしくない状況だ。そんなパンパンに膨れた彼女のお腹をみて妻の二人目の出産間近を思い出した。

 

思い出したと言っても正確な数字を覚えているわけではなくあくまでも印象を覚えているだけなので妻よ多少事実と違っていても指摘しないで頂きたい。そのことをもって何も覚えてないなどと言わないで頂きたい。だまって読み過ごして頂きたい。でないと書きたいことも書けなくなるではないか。そしてここはおとこそなので男性向けに差し出がましくアドバイスすると、ちょっとした事実認識の違いが夫婦喧嘩の火種になったりするから十分注意されたし。認識の違いではなくてあなたが間違っているのよと言われたらはいすみませんと言うべし。

 

2018年の1月を予定月として、一月早く2017年12月に出てきてしまうかもしれないと医師に言われて、外出は極力控えなるべく安静にしているようにしていた。少しでも腹の中で成長し少しでも大きくなってから生まれてほしい、だれもがそう願うであろう時間が流れた。

腹の子は生まれる前から親の心を読み、しっかと子宮内に踏みとどまっていた。

 

外界では出る出ると言われてはらはらひやひら日々を過ごし、今かもうかいよいよかいや待て待てもう少しまってくれぃと念じ続けることひと月。なんとか年末までたどり着いた。正月は毎年私の実家へ帰って宴会を開く恒例行事があるが今回ばかりは欠席にする。電車で産気づいたらたまらんと思っていたが、なんと電車で産気づいてホームで生んだひとがいるとニュースになって驚いた。

 

年末年始に出産すると特別料金が加算されてしまうからなんとか避けてほしいと念じていたらこれまた親の懐事情を察してそしたらもう少しここにいますと5次元の世界を通じてモールス信号で返事がかえってきた。

 

先生に出るよ出るよと言われてはやひと月以上が経ち、もう外界に出ても大丈夫なほどに成長したし、懸案事項であった年末年始の特別料金期間も過ぎたのでいつでもいいはずなのだが、どうしたことが出てこない。出る出るといって出ないのだからこれは出る出る詐欺だなと冗談を言い合う始末。

 

ついに出る出ると言われ続けてついに予定日を過ぎた。しびれを切らした先生がそんなに出ないんだったら促進剤打っちゃうぜベイビーといって注射器を取り出したが、腹の我が子は寝てるのかどっしり構えているのか或いは春闘のごとく椅子や机でバリケードを築いているのか注射器などどこ吹く風だ。

そんならほんとに打っちゃうぜとダーティハリーのフォーティフォーマグナムよろしくシリンダーに促進剤を装填するとズガーンズガーンズガーン。ふんねーっと第二子が生まれましたとさ。

 

その頃病院の待合室でぼくは長男と妻の出産を知らずに待っていた。すっかり退屈した息子が同じく待合室にいた同年代の男の子と意気投合していたずらの限りをつくし、用もないのにナースコールを押さないでくださいと看護師に真顔で怒られる始末。鬼のトラウマが蘇る。

永井さんこちらへどうぞと呼ばれていよいよ出産かと意気込んで分娩室へ入ると妻のよこにピカピカの赤ちゃんがいるではないか。「えっ、生まれたの!?」これがぼくの第一声です。

 

注:妻が出産した病院は分娩室がひとつしかなく、同時に二人が出産になると男性は立ち入れないのです。そしてそのとき同時に出産を迎えたひとがいたため、ぼくらも一方の父子も待合室で過ごすことになったのです。