
「イノベーション・オブ・ライフ」クレイトン・M・クリステンセン著は、経済学の理論を用いてより良い人生を歩み、より良い家庭を築き、より良い子育てをするための指南書である。もともと自分の仕事の勉強のために読み始めた本であるが、子育てについて非常によく書かれた本でもあるので、こちらでも紹介したいと思う。
本書の一節にこういう例がある。
ある男性には5歳を筆頭に3人の子どもがいる。妻は家で育児に専念している。ある日、7時頃に仕事から帰宅してみると夕食の準備はおろか朝食の後片付けもされてない混沌とした状況だった。男性は疲れていたが腕まくりをすると洗い物を片し、夕食を作り子どもたちに食べさせ始めた。食べさせながらふと妻はどうしているのかと思い寝室に行ってみると明かりを消した部屋でベッドに座っている妻を見つけた。
男性は疲れた体でこれだけの世話をしたのだから、てっきり感謝されると思っていた。しかし現実はその反対に、妻は男性に対してとても腹を立てていたのである!
男性にしてみれば、妻のためを思って家事や子どもの世話をしたというのに、一体なにがいけないというのか理解できなかった。
さあ、おそらく男性諸君はここまで読んで、そうだそうだと頷いているだろう。わたしもその一人だ。
妻はこういった。「なぜわたしを無視するの?」
こんなことを言われたら、男はみな頭の中に???????????が無限に並ぶのではないだろうか。
男性はこう言いかえす。「朝食の皿を洗って、夕食を作って、子どもたちに食べさせていたというのに一体そのどこが無視なんだ?」
そうだそうだその通りだ!文句ひとつ言わずに献身的に働く男性のどこが悪いんだ!?
しかしもしあなたが経済学を勉強し、その理論を家庭にも当てはめることができたのなら、或は妻の言い分を理解し、こうした衝突を防げたかもしれない。
妻は育児が辛くて放棄したのではなかった。一日中小さな子どもたちと「だけ」過ごし、大人と会話ができなかったことが辛かったのである。そこへ夫が帰ってきて家事を片付けてしまったことで、かえって自分に罪悪感を感じてしまったのである。
自分が求めているものが、相手も求めているはずであるという思い込みは、企業のマーケティング担当者と顧客の間によく見られる行き違いと同じであると著者は指摘している。
わたしはこの件を読んで、2つの衝撃を受けた。一つはドンピシャでわたしの日頃の不満の原因を言い当てたことである。献身的な自分に対して自己中心的な妻(とわたしが言ったのではなくて本に書いてあります念の為)という図式が根本から間違っていたという事実。
もうひとつは、異国(この場合アメリカ)の家庭でもまったく同じ状況が発生し、その男性側の言い分というのが恐ろしいほど腑に落ちるという点である(著者はこのような事例が世界中で日々起こっていると書いている)。
つまり、男女の間に流れる川の深さは、人種の間のそれよりもずっと深いのである。
著者はこのことを、結婚生活で一番理解しづらいことかもしれないと綴っている。そして、相手の「片付けるべき用事のレンズを通して」みることがなによりも大切であると言っている。(詳細は本書をぜひ読んでください)。著者であるクリステンセン氏はこの気付きが、自分に計り知れない影響を及ぼしたと書いているが、わたしも同様に大きな影響を受けた。