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初めての花火大会

昨年はあれほど花火を怖がったのに、今年は花火大会に行きたいという。

それじゃあ一緒に行こうねと約束をして、いよいよ花火大会の日がやってきた。

今日は花火大会だよと朝言うと、よほど楽しみだったらしくて保育園でみんなに話してきたようだ。うちに帰るなり靴も脱がずに早く行こうよとせかす。子どもには大人ののんびりさがじれったくてたまらない。

 

よしよしじゃあ行こうと男二人連れ立って家を出る。コンビニで飲み物と食べ物を買ってさあ出陣だ。亀戸駅からバスに乗る。普段あまり混まなそうな路線も今日ばかりは満員だ。もちろんみんなの目的地は同じ葛西橋の袂で行われる江東花火大会。終点の葛西橋で下りるとあたりはお祭りの賑わいに。息子くんさっそくかき氷をご所望ときた。尻すぼみになって容量をケチられたかき氷が300円もすることに若干腹を立てながら道中ずっとかき氷を食べることを夢見てきた息子のためにしぶしぶ購入する。

 

最近のかき氷屋さんはシロップかけ放題の店が当たり前のようだ。しかしシロップかけ過ぎで氷がすっかりなくなってしまった子もいるではないか。うちの子も黙っていればそうなりかねないのでぼくが適切にコントロールして白い部分を残す。

 

堤防を越えて荒川の河川敷にでる。ほらここ一緒に海まで行ったときに走った道だよとぼくが言うと海まで行ったねえ観覧車も行っちゃったねえと息子はうれしそうに繰り返す。ああ海まで自力で走らせてよかったと感慨に浸っていると、ぼくこの道知らない来たことないと突然言い出すから油断できない。いやいやいや今キミだって海まで行ったことを思い出していたではないか。

 

土手は人で埋め尽くされてほとんどぎりぎりに来た我々に残された場所はまずない。それでも大人ひとり子どもひとりという少人数を活かしてわずかに残る草っぱらに腰をおろした。時計を見れば開始まであと10分だ。しかし子どもにとってこの10分は永遠に等しい。かき氷という場繋ぎがなくなるとまだかまだかと言い出した。そんな声はうちだけでなくあちこちから聞こえてくるからまだか虫がそこら中にいるようだ。

 

もってきたパンを食わせなんとかあと数分をしのいでいると突然、ドーン。花火が打ち上がった。ドーン、パラパラパラ。ドーン、パラパラパラ。ドーンドーンドーン。

 

一体初めての花火にどんな顔をしてるんだろうと息子の顔を見れば、ドーンの瞬間ビクッと体を縮こませながら口をあけて夜空をまんまるの目をさらにまんまるにして眺めてる。どうだい息子よ、これが花火だよ。

 

もっとはしゃぐかと思ったら意外と静かに花火を見ている。ははあキミも成長したねえ。途中から見上げてるのが疲れたのかぼくの肩(といってもだいぶ下のほう)に頭を預けて眺めるようになった。周囲はデートでやってきたカップルだらけ。みんな片寄せあってここぞとばかりにひっついている。でもね、一番幸せなのはぼくたちなんだよね。息子と花火大会なんてこんな素敵な体験以前は夢にも思わなかったよ。ありがとう。すっげーワガママいうけど大好きだぜ。