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未来の予感

鋼鉄の外装は塗装が何層にも重ねられてさらに厚みを増し、かつての鋭利な角はみな塗料と摩耗によって丸められてそれが独特の風合いをもたせている。車内は板張りの床に木製の窓枠、よく見れば座席の骨格もまた木製だ。照明の電球がオレンジ色の光を投げかけ、床の厚塗りしたニスがそれをやさしく跳ね返していた。

 

少年が座席に飛び乗ると同時に列車は動き出し、レールの継ぎ目をゴットンゴットンと車内に響かせて走り出した。先頭のディーゼル機関車からもっとも離れた最後尾車両は、線路の継ぎ目を渡るときの振動以外は思いの外静かだった。どこかの窓が開いているらしく、そこからひゅーひゅーと風を切る音が聞こえる。少年は自分も窓を開けようと四苦八苦したあげくようやく五センチほど窓を持ち上げてその隙間から流れ行く景色を眺めた。

 

少年は初めての一人旅に出たのであった。心配する両親をよそに本人は開放感とこれから待ち受ける出来事への期待で胸をふくらませていた。

 

そんなことを考えながら昨日撮った写真を眺める。いつか一人で旅に出たいというのだろうか。一人で九州のおばあちゃんのうちへ行ってみたいというのだろうか。今ある不安は、息子にできることが増えるに従って少しずつ減っていく。よしおまえなら大丈夫、そう思える年齢がやがてやってくるのだろう。それは小学生か中学生かはたまた高校生か。いつでもいいんだよ。それは急かされるものではなくて、時が来れば互いに了承できるものなのさ。