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The Golden Month : DAY 12

「池におちた少年」

 

江東区よお前もか。

 

朝亀戸中央公園に行ってみると遊具がすべて黄色いテープで封鎖されていた。可動系遊具にいたってはご丁寧にチェーンで固定までしている。

 

この調子では他の公園も同様かと思い午後は猿江公園に行くとちょうどテープでぐるぐる巻にしようと作業員が遊具で遊ぶ子どもたちを追い払っているところだった。

 

「やだっやだっやだっここで遊ぶ!」

 

案の定絶叫系の息子が叫び声を上げたが仕方がない。そこで、

「ほら、向こうの池に行こうよ。オタマジャクシがいるよ」と言うとさっきまでのやだは

一瞬で消え去り「あ、行こう」とあっさり態度を改めるから子どもへの向き合い方は難しい。

 

この季節、池には大量のオタマジャクシが卵から孵り、池は数百匹の群れが黒々とした影をいくつも作っている。池の周りにはすでに子どもたちが集まって網でせっせとガマガエルの子どもを掬っていた。

 

物怖じしない息子は一瞬でその中に溶け込むと一心不乱でオタマジャクシと格闘し始めた。妹がお兄ちゃんお兄ちゃん呼んでいるのにあっち行ってと冷たくあしらう。大人目線でみればそんなに無碍にしなくてもいいじゃないかと思うわけだが、兄弟同士ならではの対応とも言える。

そんなわけでぼくは娘とたんぽぽの綿毛を吹いたり、小石を池に投げ込んだり、だっこして原っぱを練り歩いたりして遊んでいた。

 

そして事件は起きた。

 

オタマジャクシに飽きた子どもたちはザリガニ釣りに夢中になっていた。都心の池だがわずかながらザリガニがいるのである。ぼくがこどものころはザリガニなどとり切れないほどいたものだが、その点においてつくづく都会っ子は可哀想だと思う。

 

さて、他人にまじってザリガニ釣りに熱中していた息子の泣き声が耳に飛び込んできた。声のする方角を見れば息子が大口をあけて泣いている。

 

「おとーさーん!!きてー!!おちたー!!おとーさーん!!わーん」

 

ぼくは娘を抱えて急いで息子のもとへと駆けつける。その時すでに息子は自力で上陸していたし、半身が濡れた程度だった。そばにいた年上の子に状況を聞くと、平らでない斜めの岩によじ登ってそのまま滑るようにして池に落ちたようである。運良く足から着水して水深が30センチ程度だったため半身を濡らす程度で済んだのだ。

 

30センチでも溺れることは十分有り得る。怪我ひとつ負わなかったのは不幸中の幸いだった。

ぼくは自宅でテレワーク中の妻に連絡を入れて風呂の準備をお願いし、お尻に服が張り付いて気持ち悪いとなく息子をなんとか自転車に乗せて帰宅した。いや、しようとしたのだが、そのタイミングで娘が帰りたくないと言い始めジタバタ暴れるのをこちらもなんとか自転車のチャイルドシートに収めようやく出発と相成った。

 

気がつくと娘は寝てしまっていた。帰宅するとぼくは息子をそのまま浴室に搬送し濡れた服と靴を息子と一緒に洗った。それらは強烈なヘドロ臭を放ち、お湯で温度があがったせいかさらにその臭気を増した。息子は臭い臭いと喜んでいた。子どもにとって異質なもの、普段と違うことはすべてエンターテイメントなのだ。

 

そして冷えた体が十分温まるまでお湯につからせてから風呂を出た。

なお、息子が池や川に落ちたのはこれが2度めである。

2度あることは3度ないことを祈りたい。