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The Golden Month : DAY 14

「許して、ずっと許して」

 

二度あることは三度あることを恐れて例の池には行きたくなかったのだが、息子がどうしても行きたいというから渋々行ってみるとあまりの人の多さに絶対落ちると確信して嫌がる息子を説得して移動した。

 

人が多いのは池周辺に限られ、その反対側にまわると誰もいなかった。気温の上がった暑い日だったが木陰に入ると心地よい。風が強く吹き付け楠の葉をサラサラと散らした。最初渋った息子も枯れ枝を集めて恐竜の化石を作って楽しみだした。娘は小さな小石や草木の種を拾ってはポケットに溜め込んでいる。

 

さっきそのことを思い出して洗濯機に放り込んだ娘のパンツを取り出した時、カラカラと小石の落ちる音がした。あとで洗濯機を調べなければいけない。

 

息子は独占欲が強くなんでも「独り占め」したがる。独り占めは子どものよくある欲求の一つであると思うから息子に限った話ではないのだが、とくに妹に大してとても厳しい。トミカは絶対に触らせないし、万が一妹が触った場合の奪い返し方に容赦はない。兄弟がいる子は強くなるというが、まったくそのとおりだと思う。一人っ子なら心穏やかに過ごせる時間が兄弟には存在しない。

 

だからぼくの希望は兄弟離れて遊んでほしいわけであるが、妹はアニキが大好きでおにいちゃんがやっていることをお兄ちゃんのものでやりたがるのである!当然アニキは気に入らない。触られたくないもの、取られたくないものほど妹は欲しがるので毎度毎度親の介入は不可欠となる。

 

自分だけのものを大事にする気持ちは大切だ。そのこと自体にぼくは口を出すつもりはない。だがしかし、それほど自分のものを独占するくせに、妹のものに手を出すからたちが悪い。

 

それで今日怒った。

 

「自分のものを使わせないんだったら、妹のものを勝手に取るな!」

 

そういってぼくはトミカを取り上げた。すると息子は大口を開けて泣き叫びながら言った。

「ごめんなさい。許して、許して!」

最近ごめんなさいというワードがすんなり出てくるようになった。以前はきちんと謝りなさいといって言わせていたので偉いのであるが、こうしてすぐ口に出すようになるとごめんで済むなら警察いらないと言いたくなってしまう複雑な親心。言わないけど。

 

とにかく許して許してというので、今回だけは許すでも次やったら許さないよというと、次も許してとのたまった。そして、

 

「ずっと許して!」

 

とまで言いやがった。なんということでしょう! この先のすべての悪行について今ここで全て許せと言っているのです。許しの仮払い。許しの事前受取。これからずっとオレが何をしてもお父さんは全部許さないと許さないよというわけです。「いや今回だけは……」

「うがーっぜんぶゆるじで〜〜!!」

 

今日は空が青いな。

 

ぼくは遠い目をして今ここで起きていることはなかったことにしようと思いました。息子の泣き声がぼくの鼓膜をビリビリと震わし耳が遠くなったような感覚になりました。学生時代に一時期毎週末通ったクラブの爆音もこんな感じだったなと過ぎし日の思い出に浸ってみました。

 

ぼくを遠くへ誘った騒音は再び現実へとぼくを連れ戻しました。

 

「全部許すわけないだろ!(結局許すんだけどな)」

「うがーっ!!」

言葉に出して、「きみのすることは全部許してあげるよ」と言えなかったぼくはまだ半人前です。JEDIの道は険しい。