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The Golden Months : DAY 46

「5歳児は考える」

 

2歳児は可愛い。問答無用でかわいい。だれがなんと言ったってかわいい。もちろん5歳児だってかわいいが、2,3歳児と4,5歳児の可愛さというのは本質的に異なる。2歳児は言葉がまだはっきりしないから出てくる言葉がいちいち微笑ましい。逆にきちんと発音できたりすると、それはそれでぼくを感動させ可愛らしさが倍増する。

 

イヤイヤ期というのは1歳後半くらいから目立つようになり、2歳で爆発する。自分の意に沿わないこと、思い通りにならないこと、気分が乗らないことがあると全身で拒否を表現する。横断歩道の真ん中で座り込みを始めるのはイヤイヤ期のあるあるであろう。親が子どもを小脇にかかえて信号を渡る様はよくみる光景ではないか。我が家も同様だ。長男もやったし、今妹が果敢にストライキを実行している。

 

或いはところかまわず寝そべり全身で要求を通そうとする姿勢もまたよくあることだ。

スーパーの床、駅のホーム、道路、通路、散策路。どこであろうと寝そべって手足をジタバタ。顔を涙でくしゃくしゃにして大声で泣き、わめく。親は困惑し、世間の視線を気にする。

ぼくもやれやれと思うし、急いでいるときにかぎってジタバタが始まるから内心イラッとしたりする。

 

しかしそんなイヤイヤ行動でさえ、可愛らしさに花を添えるのが2歳児なのだ。しょうがないなと思いつつ、彼女のヤダヤダの主張はぼくへの全幅の信頼の現れであると思えば愛らしくて仕方がなくなる。

 

かようにして、2歳の娘のすることはなにもかもかわいいのであり、ぼくの頬をゆるませ裏声対応で彼女を受け止めてしまうのであった。

 

そこに5歳児が登場する。彼はかつて一人っ子であったが3歳直前で望まぬ昇格を果たし、兄となった。妹の存在が辛く苦しい時代を4歳のとき過ごし、それが彼の内面を深化させ彼自身を新たな局面へと導いた。アナキンは"I HATE YOU!!"と言った。オビワンが"YOU ARE THE CHOSEN ONE"とか"I LOVED YOU"と言葉をかけても" I HATE YOU!!"を繰り返すだけだった。彼が改心するのはそれから15年以上の歳月が必要だった。我が息子はたった1年で「妹がかわいい」と言ったのだ。4歳の1年は彼にとっても厳しいものだったが、ぼくら親にとっても長い1年であった。イヤイヤ期とは別の形で妹を拒否し続けた息子の対応をあちこちで相談したものである。

 

結局、彼の心は穴の空いた50メートルプールだと考えた。穴から漏れる量を上回る速度で愛情を注ぎ続けるしかないのだった。そしてそれは容易なことではなかった。しかし息子は生まれ持ったTHE FORCEの力が強かった。同時に心もまた強かった。だからアナキンのように安易にダークサイドになびいたりせず、1年で自己改革に成功したのであった。

 

もちろん、完全に妹への嫉妬を払拭できたわけではない。あらゆることで妹と同様を求めるのは変わらないし、親が妹の行動に頬を緩めることには敏感に反応し即座に妹のモノマネをしてぼくらから妹と同じ反応を求めてくる。しかしそんな行動の裏ではきっと様々な思いが彼の頭の中を駆け巡っているに違いない。5歳児は考える。表向きには純真無垢であどけない少年であるが、ふとした瞬間にみせる表情に二度と戻れぬ彼岸を淋しく見つめる眼差しを見つける。そしてぼくはそんな息子がどうしようもなく愛おしく感じてしまうのであった。