
丸の内にある三菱一号館美術館の年パスを持っている。
新しい展示が始まると一人でくるだけでなく、家族でも観に来ることがある。
子どもを美術館に連れてくるというのはなにかと気疲れするものであるが、子どもの頃から美術に触れさせるのは悪くない考えであると思って連れて行く。
子どもが来たというだけで各部屋の監視員の視線が痛いくらい集まってくるが、当の本人はそんなことお構いなしでいる。だいたい子どもというのはまっすぐ歩くことはない。あっちへふらふらこっちへふらふらするのが普通である。が、監視員さんたちはそれが気が気でならないのであろう。その気持ちはわかるんですが、こっちも十分注意して見てますのでもう少し自由にさせて欲しいといつも思う。
息子は今まで美術館はただの遊び場だと思っていたようであるが、5歳をすぎて絵を鑑賞できるようになった。たいした進歩である。自分から絵が見たいといって今まで見向きもしなかった絵画の前に立った。親としてはそれだけで成長を実感して満足であるが、大人のようにじっと立って鑑賞するわけではないのでいちいち監視員さんが近づいてくる。
さすがに2歳の妹にとって美術館はただの遊び場だからそうそうに妻が外に連れ出すしかなかった。まあそれも仕方あるまい。どうしても見たければまた来ればいいのだ。そのための年パスなのだから。

息苦しい美術館から開放された子どもたちは、大人の街丸の内で文字通り飛んだりはねたりを繰り返す。お昼を食べにいこうと何度誘ってもこの場を離れたがらずただひたすらジャンプを繰り返していた。しばらく好きにさせていたが、さすがに埒が明かないので強制連行で移動する。お腹が空いているくせに目の前のことだけに固執するのは、子どもは今だけを生きているからだ。

本当なら観光客でごったがえしていそうな展望スペースもガラガラだ。見下ろす駅前も週末の東京駅とは思えないほどに人が少ない。子どもたちにとっては美術館よりもこの場所のが刺激があって楽しかったようだ。ここには監視員もなく自由に動き回れるというのも大きいのだろう。
美術館にいってランチをしただけなのに、もう夕方近い。子どもといると5分の道は30分になり、30分の道は1時間以上にもなる。なんか大したことしてないのにもう今日が終わろうとしている。ショッピングしてお茶をして、帰ったらゆっくりワインでも飲んで。そんな生活をしていたころが懐かしいねと妻と話した。