
我が息子は好きなものができるととことん追求するオタク型である。
一番最初にハマったのは乗り物であった。乗り物図鑑でありとあらゆる自動車の名称を暗記しては道で眺める車種の特定にいそしんだものである。
そして次に恐竜がやってきた。恐竜図鑑を最初のページから暗記して、やたら長いカタカナの名前をよどみなく発音してぼくを驚かせた。恐竜はさすがに街なかにいないから、上野の博物館で化石を見ただけだけど、まるで物足りないようだった。
恐竜の進化の歴史をたどるようにして息子の興味は鳥類へと向かった。おじいちゃんが鳥の図鑑を買ってくれると一心不乱に読みふけった。パターンは毎度同じである。図鑑を隅から隅まで暗記する。そして表へ出ればフィールドワークだ。幸いぼくが鳥好きだから知りたいことは大体答えてあげられる。
そして夏がやってくると同時に昆虫に夢中になった。
丸善で買ってもらった昆虫図鑑をくまなく調べるのはいつもどおりだ。まったく学者肌と言えばいいのかその暗記力は我が子ながら素晴らしい。しかし真の昆虫好きなら外へ飛び出してナンボではないか。
東京で昆虫採集をする。とくにほとんど埋立地で出来ている東京の東側で昆虫を捕まえるのは至難の業である。実際近隣の公園にいる昆虫といえばセミばかりである。セミも悪くないがセミばかりというのはいけない。そしてなにより昆虫の王者であるカブトムシやクワガタを捕まえずしてなにが昆虫好きと言えようか。
ぼくは考えた。都内でカブトムシやクワガタを捕まえるにはどこへ行けばいいのか。東京とはいえ山へ行けばいるのは知っている。しかし息子はまだそこまで遠出をする年齢ではない。どうしたものか。諦めるか。でもなんとしても野生の姿を息子に見せてやりたい。
いつしか息子の夢はぼくの夢になっていた。

インターネットと野生の勘に頼って朝早く息子と冒険に出た。
さあ昆虫たちはどこにいるのか!
出てこい昆虫たち!
そして最初にイナゴの大群に遭遇した。
イナゴなんて昔はどこにでもいたけど、江東区では見たことがない。
当然息子も初めてみるイナゴに大興奮だ。イナゴイナゴイナゴ!
今じゃあ佃煮にして食べる人なんていないんだろうなあ。
好きなだけイナゴを捕ったらお次は!

こいつはショウリョウバッタの幼体ですね。あとひと月もしたら立派なバッタになるんだろう。息子が自力で捕まえた。自分で捕れるようになったんだね。

セミはいくらでも捕れたけど、羽化中のミンミンゼミはちょっとめずらしい。いいもん見せてもらいました。

うひゃー!!いたいたいたいたいたいたいた!!!!!
この光景が東京で見られるなんてまったく信じられない。息子よりもぼくのほうが興奮してしまったくらいだ。1本のクヌギの木に30匹くらいのカブトムシが集まっている。
ちょっと異常なくらいの密集度だが、それだけ樹液の出る木が少ないということなんだろう。
しかしカブトムシだらけでクワガタが一匹もいない。
クワガタ派のぼくとしてはちょっぴり悲しいが、野生のカブトムシの姿を本当に見せてあげられるなんて思っていなかったからぼくも息子も大満足である。

カブトムシを堪能したら他の昆虫も見つけてみよう。ぼくら探検隊は森や野原を探索した。するとクワガタを探していたぼくの肩にぽろりとなにかが落ちてきた。

ナナフシである。エダナナフシがぼくらを出迎えてくれたのだ。ナナフシなんて探したってみつからない昆虫だからこれまた親子大興奮。

森に返した瞬間に見えなくなった。さすがナナフシだ。

野生のカブトムシを手にしてご満悦な息子くん、を見てご満足なぼく。
また来ようねとあとにした。いい冒険だったなあ。