
日が昇る前から起きて冒険に出かけた夏の日。まとわりつくような空気を物ともせずに、虫かごを肩から下げて虫取り網をまるで槍のように持って歩くキミは実に勇ましかった。
キミのその熱意に呼応するように出迎えてくれたカブトムシやクワガタに感激し、興奮して夢中でかごに詰め込むキミの瞳は太陽のように輝いていた。

なにしろ30匹近いカブトムシがいたんだから、そのうちの4,5匹を捕るのなんてまったく節度ある行動にぼくも思えたんだけれど、いざ持って帰ってきてみるとそれでも多すぎることがわかって、しぶるキミを説得して保育園に寄付したのも思い出のひとつさ。
体の大きいカブトムシを5匹も同時に飼うなんて、よほど大きい水槽でないと無理だということは、実際に入れてみてわかることさ。保育園に寄付するまでの数日間、カブトムシはケンカばかりして見ている方は面白いけれども、あれじゃあとても長生きはできまいよ。

靴が朝露に濡れて不平を言ったり、服に土がついたから帰りたいと言ったり、東京生まれ東京育ちのキミのシティボーイっぷりにぼくはため息をついたね。そんなキミを洗礼するかのように小さなカミキリムシが指に噛みついて、大泣きしたのは大切な経験さ。キミは自然を相手にしているんだぜ。トミカとはわけが違うんだ。それがスズメバチでなくて、小さなカミキリムシだったことに感謝しないとね。

クワガタはいつだってぼくの心をときめかせてくれるんだ。お父さんはカブトムシよりもクワガタ派だからね。だからキミが初めて見る野生のクワガタに興奮している姿をみてぼくも感動したよ。

昆虫ってまったく素晴らしいね。こんな小さな体なのに、ぼくらに与えてくれる感動のなんと大きいことよ。体長23ミリ程度の小さなコクワでさえ、眺めていて飽きることがないのだから。おもちゃにこの感動はあるかい?ヨドバシに売ってるかい?
昆虫の力ときたら大したものだ。でも、それもこれもキミが昆虫を好きになってくれたから経験できることなんだよ。これからも好奇心の赴くままに、色々なものに興味を持ってくれたまえ!
