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昆虫捕ろうぜ!(秋)

ぼくが子供の頃は、父親が虫捕りに連れて行ってくれた回数は数えるほどしかない。だからそのせいか、そのときの様子はよく記憶していてそれは捕れた昆虫の種類ではなくて一緒に行ったときの風景として覚えている。

 

夜の家族で出かけたクワガタ捕りはクワガタが捕れた記憶はまるでなくて、ウシガエルの声が不気味に響く農道を、ぼくは父親の自転車のトップチューブに座り、姉は母親の後ろに座って連れて行ってもらった暗闇が思い出である。時々懐中電灯で照らした木の洞には明かりを感じて逃げるゴキブリがいるだけだった。

 

今思えば、自然がないないと思っていたその土地でさえここ東京の東の地に比べれば様々な昆虫が生息していた。バッタやカマキリを捕りに行くのに電車とバスを乗り継いで小一時間かけて行くなんて、いったいだれが想像できただろうか。

 

真夏の倒れそうになるほどの暑さを忘れ、ぼくは長袖を着て三度この公園にやってきた。涼しいを通り越して肌寒いくらいになっていたから、どれくらい昆虫が残っているか心配だったがこの日も多くの昆虫が犠牲いや子どもたちを出迎えてくれた。イナゴも最盛期に比べれば減ったが、それでもまだまだたくさんいたし、すっかり大きくなったエンマコオロギがそこら中を這い回っている。コオロギはその音色は美しいが見た目がゴキブリみたいでぼくなどは捕まえる気にならないが、子どもたちは嬉しそうに次々と捕獲している。カマキリがいて、コアオハナムグリがいて、名前の知らないバッタがいて、空をトンボたちが行ったり来たりしていた。

 

 

池には巨大なウシガエルのおたまじゃくしと、すでにカエルになったまだ小さなウシガエルがたくさん泳いでいた。このうちのどのくらいが生き残って大きなウシガエルになるのだろうか。ザリガニもたくさんいるようであちこちで親子がザリガニ釣りにいそしんでいた。水生昆虫はヤゴくらいしかいないようで、ミズスマシや小型のゲンゴロウ類の姿も見えなかった。やはりここは東京なのだなあ。

 

まるで気の進まない足取りで、1秒でも公園にとどまろうと歩みを緩め、のろくさとついてくるのはいつものこと。また今度くればいいじゃんと言うと、今度来るって言って全然連れてってくれないじゃんっ!と語気を荒げて叫ばれた。そうだよね。おうちの周りは自然があまりにもなさすぎるよね。来年はさあ、キミがまだ昆虫好きでいてくれたらもっと捕りに行こうね。