
「せむしの子馬」
ピョートル・イェルショフ著
大日本雄弁会講談社 昭和二十五年(1950年) 定価150円
先日実家に行った際に発掘したぼくの思い出本である。あやうく一連の本とともにBOOKOFFに売られてしまうところだったのを救出したのである。実際は価値のわからないBOOKOFFに無料で引き取られてしまうのが関の山である。まったく危ないところだった。
「せむしの子馬」はぼくが子ども頃繰り返し繰り返し読んだ本だ。物語はドラえもんと同じようなもので、毎度ピンチに陥るイワンを「しょうがないですね」と言いながら背中にコブのある子馬が知恵と力を授けて助けてくれるのである。そして晴れてお姫様と結婚までしてしまうのはこの手の物語の定番と言えよう。
せむしの子馬はただの馬にあらず、言葉を話すし、空からやってきた馬であるし、走れば風よりも速く走れるし、なんでも知っているときた。元来怠け者だったイワンは偶然手に入れた子馬の力によって最後は星のお姫様と結婚して王様にまで成り上がるのである。しかしイワンは怠け者だったが、正直で、純真でもあった。お姫様と結婚したかったわけではなく、結果として運命が開かれてそうなったのである。ほんとうは日がな一日ごろごろして時々馬の手入れをして笛を吹いたり歌を歌ったりして暮らしていたかったが、次から次へと冒険に出ざるを得ない状況に置かれて仕方なく降りかかる災難を払っていただけだった。子どもがイワンに至極共感するのは、子どもはいつもイワンと同じ状況に置かれているからであろう。
大人にとって当たり前のことが、子どもにとっては試練になりうる。学校に行くのもそうだろう。そんなとき、せむしの子馬がいたらなあと思う。実際にはそんな馬などいないから、ついまた本を手にとってしまう。ページをめくっている間は自分はイワンでありその世界に浸るのだ。そんなふうにして、空想に思考の翼を広げて飛び回る時間が子どもには必要なのだろう。そしてそれはドラえもんのような映像を見ることでは不可能な体験であり、文字を読むという行為だけに許された特権である。だから本を読もう。
