我が子とサイクリング。自転車乗りの夢である。生まれたての赤ん坊を目の前にしてそんな想像にほくそ笑む。ぼくなどはデローザのネオプリマートを一時期処分しようかと考えたこともあったが、我が子が乗れるようになるころには立派なビンテージで、自転車にまたがる子どもの姿を想像したら売れなくなってしまった。
子どもが二歳になるとそろそろ乗り物に乗せようと考える。それは何か。ストライダーだ。ストライダーの登場はそれまでファーストステップ乗り物だった三輪車をレッドリストに載せ、補助輪を隅へ追いやって自転車へのアプローチを根底から覆した。ストライダーはキックバイクというジャンルを創出し、そこへ多数の類似品が生まれたがやはりオリジナルのストライダーが一番優れているように思う。

類似品にはブレーキを装備して安全性を謳ったものがあるが、二三歳の子どもに指で引くブレーキは不要である。足ブレーキで十分だ。逆に言えば、足ブレーキで止まらないほどのスピードはタイヤをロックしたところで止まるものではない。そもそもそんなにスピードは出ない。ぼくはよく息子のストライダーにつきあってランニングしていたが、所詮その程度のスピード域である。ブレーキングで靴が減ることもない。
それからよく公道でキックバイクに乗っている子どもをみるが、あれは公道を走るものではない。あくまでも公園など閉じた空間で乗るものである。子どもが急に止まれない危険性よりも高さが低すぎて自動車の運転手から見えないのではないかとみていてヒヤヒヤする。絶対にやめていただきたい。
ストライダーは軽いのがいい。類似品は付属品が多くなりすぎて重量があるものが多い。ストライダーは割り切りのよさと小さな子どもが使う道具としてよく考えられている。軽いのは親にとっても負担が少ない。息子は飽きるとよくストライダーを置いて他のことを初めてしまっていた。そんなとき、ぼくがストライダーを片手で持って移動するのである。軽いからできることである。
そんなストライダー人生もたったの二年ほどで終わりを迎える。二歳から乗り始めて、四歳になったくらいでおしまいだ。うちの場合は下の子に受け継がれていくのでもう少し寿命が長いが大人が一生モノとか言っているのに比べたら短いものである。

次に初めての自転車が登場する。あの頃のぼくは気があせって三歳くらいから自転車に乗せようと準備していたが、実際に息子が自転車に興味を示したのは四歳になってからだった。なので丸一年間放置していたことになる。そしてその一年の子どもの成長は目をみはる。ストライダーと同じ車輪径である12インチの自転車を用意していたが、四歳の子どもにはすでに小さすぎた。
コーダブルームというホダカ自転車のオリジナルブランドのバイクである。付属品に補助輪と大人が支えるための手押しハンドルがあったが、それらは最初からすべて撤去した状態で息子に渡した。そしてストライダー効果である。ものの三十分程度で自転車に乗れるようになった。ストライダーでバランス感覚を得ていた息子にとって、あと覚えるべきはペダルを漕ぐという動作のみである。だからあっという間に乗れるようになった。

ここで補助輪付き自転車を渡すとどうなるか。友人がまさにそれをやってしまったのであるが、その子はバランス感覚を忘れていつまでも補助輪が取れないでいた。キックバイクの次は補助輪なしが正解である。
12インチの自転車に乗って息子はどこまでも走った。二人で荒川の河川敷までいき、葛西臨海公園まで走ったこともあった。八キロほどの距離を小さなペダルをくるくる回して一生懸命漕いでいた。ぼくはその隣や後ろを電動アシスト自転車でついていく。息子に自走で戻る体力はないから帰りはぼくが息子も自転車も積んで帰るためである。それに、小さな自転車で公道を走らせることも不安であった。だからぼくは公園や河川敷まではいつも子どもと自転車を積んで走っていた。早く自分の自転車に乗って一緒に走りたいなあと夢みながら。
三歳で乗せようと思っていたが、こちらの思惑に反して四歳から乗り始めたため12インチはたった一年でお役目御免となった。五歳になった息子には新しいバイクが必要だ。

ヨツバサイクルはダートフリークというスポーツ自転車の代理店がオリジナルで展開するブランドらしい。ヨツバサイクルに乗っている子どもをみたらたいてい親は自転車好きと思って間違いない。実際どこでも売っている自転車ではないし、わざわざ指名しないと買えないものだからそう思っていいだろう。
子ども用自転車の最大の問題点は重いということである。ぼくのスチール製ロードバイクの重量が九キロほどであるのに対し、それより遥かに小さい子供向け自転車は十二キロ以上あるのが普通だ。自転車は軽いほうがいいに決まっているし、力のない子どもが扱うのだからその点においても軽いほうが操作しやすい。ストライダーと同じだ。しかし軽さを謳う子供向け自転車というのはまずない。そこへ目をつけたのがヨツバサイクルである。
18インチで7.8キロは立派である。ブレーキは前後Vブレーキで好感度高しである。後輪にママチャリと同じドラム式ブレーキがついている子ども車をよくみるが、ドラム式は効きの悪さよりも引きの重さのほうが気になる。とくに握力の弱い子どもが使うのだから、引きは軽いほうが絶対によい。

12インチからのアップグレードに18インチを選んだのは16インチよりも長く乗れるだろうという大人の算段である。ところがその考えが甘いものであったと二年後に悟るのである。18インチに乗って一年後にリアコグを標準の18Tから16Tへと交換している。脚力もついてきてハイケイデンスすぎるのでスピードアップとペダリングが楽になるようにという配慮である。しかし、さらに一年が経ってもう18インチは限界だと悟ったのである。それは現代っ子特有の問題によってであった。
今の子どもは足が長い。身長に対して足の長さの割合がぼくが子どもの頃とは明らかに違う。ぼくも子どもの頃は親戚のおばさんに足が長いわねえうらやましいと言われてきたものであるが、現代っ子と比べれば胴長短足もいいところである。つまり、身長的には18インチであと一年はいけるのであるが、足が長いためにクランク長とまるで釣り合わないのである。そのためサドルを目一杯上げてつま先立ち状態にしてもペダリングがギクシャクしてしまう。息子にはもっと長いクランクが必要で、それにはもっと大きい自転車でなければダメなのであった。
ヨツバサイクルはいい自転車であるが、一つだけ欠点がある。それはチューブ・バルブが米式なのである。ママチャリで一般的な英式でもなければ、自転車乗り御用達の仏式でもない。たぶんこの手の子供向け自転車で需要が一番あるのがアメリカなのであろうか。よくわからないがこれだけで使いにくい。だから次の自転車でヨツバサイクルを選ぶことはない。次は24インチだ。このくらいの大きさになってくるとだいぶ大人のバイクと部品を共有するようになってくる。チューブ・バルブも仏式を選びたい。自転車が大きくなればその分遠出する機会も増えよう。万が一パンクしたときバルブが仏式ならぼくのポンプで用が足りる。
実はすでに24インチのバイクを注文済みだ。しかし入荷は早くて六月になるという。もしかしたらもっと遅くなるかもしれないとも言った。まあそれはいい。時間がかかる分息子の身長も伸びるから乗りやすくなるだろう。納得いかないのは今注文したのに、値上げ後の価格対応になるということだ。そんな商売してるといまに痛い目に合うぞと思ったが、どうやらその他大勢のメーカーもコンプライアンス無視の値上げ対応を敢行しているらしい。自転車業界おかしいですよ。
新しい自転車については手に入れてからまた書いてみたいと思うが、自分の自転車はすでにあるバイクですっかり満足しちゃった今、子どもの自転車選びがぼくの楽しみになっている。
いつか子どもに坂でちぎられる日を夢みて。