· 

理不尽な話

娘ちゃんは四歳になりましたがお食事のときはいつもぼくの膝の上です。

本人は五歳まで続けるとか十歳まで乗るとか行っています。たまにはひとりで椅子に

座ってといえば大声をあげます。だからぼくは仕方なくだっこしながら食事をします。

最近体重が十七キロを超えて足がしびれるのですがそんなことは娘ちゃんには

知ったことではないようです。

 

夕食を食べていたある日のことです。娘ちゃんが言いました。

「あたしが一番好きな人はだれだ?」

なんという質問でしょう。毎日毎日ぼくの膝の上でご飯を食べているのですから

当然答えはお父さんで決まりです。

「お父さんでしょ」

「お兄ちゃん」

え。今なんとおっしゃいましたか?よく聞き取れなかったみたいなのでもう一度聞きました。

「お父さん」

「お兄ちゃんって言ってるでしょ!」

 

なにおーと思いました。一体どの口がそんなセリフを吐いているのでしょうか。

「それじゃあ二番は」

「お母さん」

ぶっ飛ばす。ぜってーぶっ飛ばす。娘と言えどぶっ飛ばす。そんなぼくの気持ちをよそに

娘ちゃんは言いました。

「一番がお兄ちゃんでえ、二番がお母さんでえ、三番がお父さん」

その瞬間ぼくは娘を床におろしました。だって、そんなこと言わなくたってわかりますよね。

だれだってそうしますよね。すると娘ちゃんは大声をあげて泣き始めました。

「だっこお〜だっこお〜だっこしてよおう〜」

 

そんなの嫌です。いくら心の広いぼくだってお断りです。そんなにお兄ちゃんが好きなら

お兄ちゃんのところへ行ったらいいじゃないですか(この時お母さんは仕事で不在でした)。

しかし娘ちゃんは執拗にだっこを強要し、大粒の涙をぽろぽろと流します。三番手のぼくですが

娘ちゃんを思う気持ちは変わりません。だから重い娘ちゃんを持ち上げて膝に乗せました。

 

「だれが一番好きなの」

「お兄ちゃんっ」

「二番めは」

「お母さんっ」

 

ぼくはすっと娘ちゃんを床におろしました。だれだってそうするように。すると娘ちゃんは

先程同様にだっこの強要を繰り返して激しく泣きました。だからぼくは仕方なくもう一度

娘ちゃんを膝に乗せてやりました。娘ちゃんはぼくを殴ったりぼくの服で涙を拭いたりして

勝手に溜飲をさげておりました。こんな理不尽な話ってあります?