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木をみつめ、その先に夏を見る。

コナラの木がある。いくつもある。いや、いくつもどころじゃない数が生えている。

その中に、こんな木がある。えぐれていて、黒ずんでいる。ぼくはこんな木を見つけると

胸が高なって仕方がない。黒ずんでいるのは樹液が出ている証拠である。えぐれているのは

風雪や虫などによって侵食された証拠である。夏になれば、このあたり一帯はすこしつんとした

芳しい芳香に包まれるだろう。ぼくと息子はそれを胸いっぱいに吸い込んで深呼吸をする。

どんなに上等なワインでさえこの香りに敵うものはない。たとえそれがDRCであってもだ。

所詮人間の作り出すものは自然の足元にも及ばない。我々人間にできることといったら、

少しでも自然に近づこうと努力することだけだ。

 

この芳しい芳香に集まるものたちを想像してみるだけで心臓の動悸が速まる。

早く夏よ来い。春さえまだその片鱗を見せているにすぎない季節にもう夏のことを

考えている。コナラのでこぼこの樹皮に触れ、樹液が溢れその受益者たちが集う様子

をぼくと息子は想像している。ぼくらは木を見つめ同時に未来に思いを馳せている。