
週末は必ずと言っていいほど息子と森へ来ている。
自転車で20分ほど走ると大きな森へ出る。自宅から5分の距離にも森があるが、
この森を知ってからは林にしか見えなくなった。そこも林と呼ぶには広すぎるのだから
十分森なのであるが。
はじめは未知の世界だったこの森も何度も訪れているうちに獣道のような道でさえ
未知でなくなった。まさにマイフィールドと呼べるほどに知り尽くしたといっても
過言ではない。
春の気配が進んでくると森はすこし寂しくなる。真冬に目にしていた鳥の数が
すこし減ったように感じるからだ。その代わり草木が芽吹き花が咲きどこからか
昆虫たちが現れてくる。
ほんとに一体今までどこに隠れていたのだろう。
咲き始めた梅の花にミツバチやアブがやってくる。冬の静寂を虫の羽音が破り、
たんぽぽが花弁を押し開くようにして春の到来を告げる。
ふかふかに積もっていた落ち葉は粉々に砕け散り土となる。落葉樹が葉をつけるのは
まだまだ先で、それまでに降り注いだ太陽を浴びようと小さな草木たちが一心に背伸びを
して、森に草の香りが充満する。ああ春が来たんだなあ。
ぼくは息子とともに、そこかしこに感じる春を喜んだ。その時頭をかすめるようにして、
頭上をノスリが翼を広げて通り過ぎていった。それはまるでアスランが氷の時代を終わらせた
ように、雪の女王をすくみ上がらせるには十分すぎるほどの威厳をもって。

あれだけ雨や雪が降ったというのに、夏の王者は一片の陰りもなくその大顎を輝かせていた。
息子は夢中になって、朽木の周辺に転がった冠を拾い集めた。文字通りヘッドハンティング。
死骸であるが、死んでなお美しくあり続けるのは王者の証であり、とても人間には真似できない。せいぜい異臭を放って腐り果てていくだけだ。だから昆虫はすごいのである。

ノコギリクワガタ三兄弟。まるでガラガラドン三兄弟みたいだ。一番大きなノコのガラガラドンなら、トロルの肉を裂き骨をも砕くだろう。ちょきんぱちんすとん。
