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冬の森探検隊

暖かい陽気に包まれて春の風を感じるようになったとはいえ、森の様相はまだ冬である。これから暖かい日が続けば草木は一気に芽吹き森中に彩りを加えるのだろう。ぼくら探検隊はそんな森の様子を調べるために準備万端で森の奥へと足を踏み入れた。

 

頭上でギイと声がすればコゲラだ。このあたりはコゲラの数が多くてあっちでギイ、こっちでギイと声がする。他にいつもの鳥たち、エナガ、シジュウカラ、メジロなんかがやってきてぼくらに挨拶していった。隊長は目にした鳥の名前をその場で記録している。片付けはできないがこういうところは几帳面らしい。

 

隊員はその様子を固唾を呑んで見守っている。ぼくは隊長のメモ帳預かり係でそれは以前隊長がメモ帳を落としてなくしたからである。帰り道にぼくが発見したときにはだれかの足跡がくっきりとはんこのように押されていたが、隊長はそんなことより無事にメモ帳が見つかったことに安堵していた。足跡のページは剥がさずにそのままになっているあたりが隊長らしい。

 

森の中は朽木がたくさんあって、そのほとんどがコナラである。コナラやクヌギは木目が粗く材木としては不適合だが、その分腐りやすいので多くの昆虫にとってなくてはならない住処であり食料である。そしてそうした昆虫を食べる鳥たちが暮らしていけるわけで朽木として死んでなお多くの生き物を支えている。

 

地面に横たわった朽木はスポンジのようにふかふかになっていて、触れば簡単にばらばらにできる。だからぼくら探検隊は朽木をほじくって中にどんな昆虫が潜んでいるのか調査するのである。樹皮をめくるとゴキブリが何匹も飛び出してくる。木をほぐすとゲジゲジやヤスデがどやどやと出てくる。小さなゴミムシの類もよく見る。うーむ。なにかこう、心ときめく昆虫はいないものか。そう願いながら積木くずしならぬ朽木くずしをしていると出てきた。思わず声がでる。心臓が高鳴った。思い切ってはがした樹皮の下にそいつはいた。

 

クワガタかカミキリの幼虫だろう。ぼくらは嬉しさ反面なんだか悪いことをしてしまったような心持ちになってそっと樹皮をかぶせてその場所をあとにした。夏の楽しみを今奪ってはならない。

 

森の奥までだいぶ来たのでそろそろお昼にしよう。今日はおにぎりを作る時間がなかったのでコンビニで買ったおにぎりを分け合った。隊員が自分で選んだおにぎりがまずいといってぼくのと強制交換された。ぼくのを食べてやっぱりいらないと言うから、他に食べ物ないからしっかり食べなさいといって食わせる。コンビニのおにぎり不味いよね。

 

ヘンゼルとグレテヤルは最後のおにぎりを食べました。もうこれでなにも食べるものはありません。じゃなかった。腹を満たしたぼくらは探検の続きに足をすすめる。大きな朽木があっていわゆる倒木というやつだが、それをぼくがひっくり返してみることにした。死んだクワガタやカブトムシの破片が出てきた。隊員は羽だの足だのを集めてはせっせとポケットに突っ込んでいる。え、そんなの持って帰るのと聞けば見ないでと言う。

 

そのうちに隊長がカビたコクワの死骸を発見した。カビているから捨てなさいと言って捨てさせる。またあった!隊長が掴んだそれは、生きていた!

なんと冬眠していたコクワであった。寝起きの悪いそのコクワは隊長の指をしこたま挟み込んで離さない。いてててててててててててててててててててててて、と言いながら隊長は嬉しそうだった。